「世田谷区における人と動物との共生に関する考え方」についての提案

(2002年6月)

世田谷区はペット条例制定の計画を進めていますが、特別に条例を制定しなくても実行できる措置は多数あります。また、現行法などには規定されていないため、新たに条例を議決しなければ実行できない措置も考えられます。

以上を多少整理し、動物擁護の意味合いを強めた提案内容です。賛同いただける際には署名してお使いいただけます。その際には、他のご意見なども添付して直接担当セクションまでお届けください。

世田谷区は条例制定に関する意見を募集し、区民参加のフォーラムを開催しています。

動物の愛護及び管理に関する法律など基づいて、各地域行政が条例を制定することができます。この条例を通称「ペット条例」ともいいます。

原則として地域行政は、法律に決められた範囲の事柄を実行します。地域の事情に即した実行措置が、法律の中では行いにくい際には、やはり法律を超えない範囲の中で、それぞれの条例や措置を制定することができます。

しかし、身近な犬やねこに関して、始めて一般的になった法律は昭和25年の「狂犬病予防法」でした。この法律は、当時野犬化する犬から人間に対する被害を防ぐ対策に使われたため、動物の法律は「動物から人に対する侵害を防ぐ為に動物を殺す」目的で使うなどの意識を高くしてしまいました。

現在でもこの意識が慣習として受け継がれ、行政措置等でも愛護動物を排除するような対応が行われている地方もありますが、これらの不確実な風潮を見直す気運も出始めています。

また、法律の実行を受ける市民の側にも、狂犬病予防法時代の「野犬狩り」などの観念が未だ多く残っています。

先頃見直された政令基準の中で「ねこの室内飼養」もとりあげられたため、そうなると「従来から外にいる野良猫が殺されてしまう」ことに結び付けてしまった市民が多くいました。さらにもっと強く誤解されて「野良猫は家の中に連れて帰れ」などといわれる被害意識を持ってしまう声も多く聞かれました。

いずれも法律の実行についての適切な方法ではありませんので、法律を実生活に結び付ける際には正確な情報の伝達や、適切な行政の指導が強く求められています。

各地域行政ではペット条例の策定が盛んに行われています。多くの場合には「人と動物の共生を目指して」などが最大のテーマとされています。ペット条例の前段にある動物愛護法の目的と基本原則を念のため引用しました。

第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、動物の虐待の防止、動物の適正な取扱いその他動物の愛護に関する事項を定めて国民の間に動物を愛護する気風を招来し、生命尊重、友愛及び平和の情操の涵養に資するとともに、動物の管理に関する事項を定めて動物による人の生命、身体及び財産に対する侵害を防止することを目的とする。
(基本原則)
第二条 動物が命あるものであることにかんがみ、何人も、動物をみだりに殺し、傷つけ、又は苦しめることのないようにするのみでなく、人と動物の共生に配慮しつつ、その習性を考慮して適正に取り扱うようにしなければならない。

動物愛護法の目的と基本原則

この「目的」や「基本原則」に基づくことが「法の精神」を尊重することにつながります。野良猫だからといって捕まえて殺すことは生命尊重の精神から外れ、何がなんでも室内に連れ込ませることは、連れ込む人の財産や身体への侵害を抑止するという法の精神に疑問を生じさせます。

一方では、命あるものであるとされる動物から、人の生命、身体及び財産を保全することも法の精神とされています。愛護動物を保護や管理する立場の人々は、なるべく動物の生態などを考え、動物の立場に戻って、他人に迷惑を及ばさないようにしなくてはなりません。

これは、一般の飼い主さんに限らず、動物に係わるすべての人々にあてはまります。すべての人々が愛護動物に対して行える実行方法も、法律で定められています。

一生涯飼い続ける「終生飼養」、生態・本能・習性・感染症の知識を持って飼う「適正飼養」、生まれても飼い続けられないときの「繁殖制限」、捨てることや殺し傷つける「殺傷犯罪」、また飼い主の適正飼養の責務を放棄する「衰弱させる虐待」などは懲役を含む罰則が課せられます。

法の精神を実行するために、動物愛護法などの範囲の中で不足しており、各地域行政のペット条例に求められる身近で具体的な条例懸案項目を次に記しました。

  • 公設アニマルシェルターの構築
    「引き取った動物に対する飼養の継続、及び飼養希望者の発見に努める等、できるだけ生存の機会を与える」事を目的にした行政施設や措置の整備。
  • 愛護動物飼養禁止措置・繁殖制限違反罰則
    安易な引取り申請の受諾を避ける目的で、適正な終生飼養や繁殖制限、周辺環境の保全などの責務を満たさない者(飼い主のほか取扱業などを含む)に対する抑止規則。生態系に格別に影響を及ぼす恐れの有る外来種動物などの不適切な飼い主の繁殖制限違反罰則や飼養禁止措置。
  • 犯罪該当動物の保管
    遺棄違反や殺傷違反の摘発強化に加えて、新たに飼養禁止罰則や、繁殖制限違反罰則を定めた際に、事件の解決を図り該当の動物を保管する機能や設備。
  • 行政間の情報交換措置
    動物愛護の整備・充実を図る目的で、警察、消防、教育委員会などが相互に緊密に連係した情報交換や、各々の機関が連動する動物愛護の普及啓発体制措置の構築。
  • 愛護動物立ち入りガイドラインの構築
    公営・公設住宅などの入居ガイドライン及び、公共施設に愛護動物が立ち入るために必要な設備などの整備。
  • 災害基本法に対応する緊急災害時動物措置
    緊急時の災害対策本部からアニマルレスキューを除外しない措置。緊急災害時に避難所に想定される公共施設などには、平素より愛護動物が立ち入りまたは、保護管理を行える設備や機能の整備。
  • 動物引取り課税
    「犬及びねこの引取りについては、飼い主の終生飼養の責務に反し、やむを得ない事態としての所有権の放棄に伴う緊急避難措置として位置付けられるものであり、今後の飼い主責任の徹底につれて減少していくべきものであるとの観点に立って、引取りのあり方等につき、更なる検討を行うこと。」と付帯決議された事項に関しては、飼い主責務などの普及啓発の実行がなされた際において、引取り業務に関する意識が変革されていくものであることに基く動物引取り課税。
  • 動物取扱業の登録課税と商取引課税及び繁殖制限や終生飼養責務の強化及び営業停止措置
    生物多様化国家戦略にも係わる、ペットの移入動物化対策として、動物取扱業などの完全登録性と施設規模の大小等の制限並びに通信販売などの制限の排除。動物を供する業者等に対する終生飼養責務及び繁殖制限強化規制。特定動物などの個体登録課税。業者登録取り消し、生涯に及ぶ営業停止措置。野生動物移入禁止規則ほか。
  • 愛護動物陳列展示の禁止。及び、協議会と推進員などを拡大展開し組織的に確立する措置
    シェルター機能の運営・動物愛護の普及啓発・需要に応えなければならない愛護動物の育成、生体陳列展示の消滅における弊害を避けることを目的にシェルター拠点を分散。・適正な飼い主の教育・愛護動物のトレーニング機能・獣医療介護施設・アニマルレスキューパトロール等の一切の機能を整備。
  • 狂犬病予防法の犬の登録性罰則執行の強化措置
  • 強制力を持つ動物専任パトロールの設定
  • 近交劣化(又は退化)の情報公開措置
    事業者においては、近親交配などの弊害による動物間感染症の発生や疾病障害発生情報の公開措置。
  • 愛護動物は命あるものであることにかんがみた際に動物が飼養される立場
    家庭動物、学校飼育動物のほか、実験、展示、産業、畜産などに供される動物が、その分野を離れ他の分野に移動し、新たな立場で呼称されることから、どのような分野からの動物にも、飼養及び保管などの措置を実行するため、すべての愛護動物の飼養及び保管に関する、地域行政独自の措置基準を策定。法の精神と理念に基づき、1個体の愛護動物がその一生涯の生存中に供される分野や時期に従い、命があるものであったり、命が尊重されない場合が生じるなどの混乱を防止し、条例の整合性を保つため、地域行政においては愛護動物の生死に係わらず実験、展示、産業、畜産などに供さない措置。

上記のほか、各地域行政単位では法の精神である「動物が人間や自然環境を侵害する恐れを抑止し、命ある愛護動物に保全を果たす」ことが可能です。地域性に配慮された条例を計画し、地域社会の動物愛護土壌を育むことにより、地域住民に対する動物愛護の普及啓発が自然に行われ、人と動物との共生が果たされます。

※従来の規制を緩和する際には、責務実行の強化措置が求められ、規制を強化する際には責務の実行を容易に行える行政措置が必要です。

例えば「ドッグラン」という緩和措置を実行する際には、飼い主や動物取扱業責務の強化が求められ、ねこの室内飼育を啓発する際には、飼い主のいないねことの共生施策の実行や、遺棄犯罪などの徹底した執行及び、取扱業などにおける余剰生産ねこ等の繁殖規制や近交劣化(退化)対策措置などが求められます。

また、愛護動物を、単なる嗜好的なペットと位置付けることを避けた、適切な実行措置が条例には求められます。各地域行政単位では、愛護動物を市場に流通させる目的の生体陳列展示に変えて、アニマルシェルターシステムを適切に構築することにより、動物愛護法の精神の実行が図れます。